「だれも知らない小さな国」(佐藤さとる)

日本文学史上最初かつ最高のファンタジー小説

「だれも知らない小さな国」(佐藤さとる)講談社文庫

「ぼく」は幼い頃、
自分だけの小山を見つけ、
そこが大好きになる。
ある日、小川を流れる靴の中で、
小指ほどしかない小さな人間が
手を振っているのを見る。
大人になった「ぼく」は、ついに
小人=コロボックルと遭遇する…。

これぞファンタジー文学です。
本作品を読むと、
現代の作家の書いたファンタジー小説が
かすんでしまうのではないかと
思ってしまいます。
日本にはこうした児童文学や冒険小説、
ファンタジー小説が
長く存在しませんでした。
明治の文豪たちが
そうした作品を書かず、
小説のジャンルとして
確立しなかったからです。
本作品は日本文学史上
最初かつ最高の
ファンタジー小説ではないかと
私は考えています。
理由がいくつかあります。

第一に、
子どもの視点で
書かれた小説である点です。
物語の中心部分は、
主人公「ぼく」が大人
(おそらく18~22くらいか?)に
なってからのものです。
しかし、読んでいると
あたかも中学生くらいの
少年の物語のような
気がしてくるのです。
作者が子どものような純粋な視点で
作品を紡いだからなのでしょう。

大人になった「ぼく」は
同じように小山に思いを寄せる
「おちび先生」と出会います。
そして「ぼく」は「おちび先生」とともに、
コロボックルたちの国である
「ぼくの小山」を
守り抜く決意をするのです。
少年の心を微塵も失っていない
大人の姿が描かれるのです。

第二に、
すぐ目の前で起きているような
現実感がある点です。
ファンタジー小説は基本的には
非現実的にならざるを得ません。
本作品は、
コロボックルが登場すること以外は、
実にリアリティに富んでいます。
綿密な構想の下に、
具体的な表現を
積み重ねているからなのでしょう。

第三に、
感情移入のしやすい小説である点です。
主要な登場人物は「ぼく」、
大人になってからは「せいたかさん」。
そして「おちび先生」。
名前が与えられていないから、
読み手はいつでも「せいたかさん」に
なることができるのです。

そして第四に、
とびっきりの恋愛小説である点です。
せいたかさんとおちび先生の
恋愛感情は全く表現されていません。
にもかかわらず、この二人は
素晴らしい恋をしているのだと
実感できるのです。

世界のファンタジー文学の草分けが
「不思議の国のアリス」であるならば、
日本におけるそれは
間違いなくこの
「だれも知らない小さな国」であると
考えます。
中学生にぜひ読んでほしい一冊です。

※巻末の梨木香歩の解説も
 読み応えのある素晴らしいものです。
 本編は3回しか読んでいませんが、
 解説はかれこれ十数回読み返しました。

(2019.3.8)

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